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大阪地方裁判所 昭和44年(む)349号 決定 1969年10月30日

主文

原裁判を取消す。

被告人両名の各勾留を取消す。

理由

本件準抗告の趣旨及び理由は、弁護人作成の準抗告申立書及び準抗告の申立理由補充書のとおりであるが、要するに被告人両名につき公訴提起のあった現在においては、罪証隠滅並びに逃亡のおそれはなく、さきに弁護人の申立てた勾留取消請求を却下した原裁判の判断は誤っているというにある。

よって判断するに、被告人両名の各勾留事実は、共謀者の範囲が「二名」から「数名」となっている他は、ほぼ添付起訴状写(いずれも昭和四四年一〇月二一日起訴)のとおりであって、被告人両名はY(少年、現在観護措置中)と共に三名のみで各公訴事実記載の犯罪を行ない、現場において現行犯逮捕された事実が認められる。各一件記録及び取寄記録によると、被告人池田及びYは自己の身上及び犯罪事実に関して完全に黙秘し、被告人安藤は自己の身上及び現場における自己の行為のみを供述しており、被告人両名及びYと右三名の実行者以外の者との共謀の事実を認めるべき証拠は捜査官側においては収集されていない。従って検察官としては右三名の現場における共謀に基づく行為として被告人池田、同安藤を起訴したものであって、いわゆる背後関係者との共謀まで認めて起訴した趣旨とは認められない。一方、被告人両名及びYの公訴事実記載の各行為は、その着手から逮捕に至るまで、現場にいた市役所職員及び犯罪を聞知してかけつけた市役所守衛、機動隊隊員等多数によって現認され、捜査官側においてすでに捜査報告書あるいは警察官調書、検察官調書の形で詳細に証拠収集がなされている。そうしてみると、被告人らが黙秘しているとしても、被告人両名の各公訴事実記載の犯罪行為を立証する証拠はすでに十分収集されており、目撃者等の数、地位から見て被告人等においてこれに働きかけることは不可能であって、また公訴提起後である事情もあわせ考えると、検察官側において今後収集して法廷に顕出が可能な証拠、従って被告人両名が隠滅可能な証拠はほとんどないものと考えられる。

次に、逃亡のおそれについて見ると、被告人池田は、その住居氏名等を勾留裁判官に対して述べており、住居は下宿ではあるが、奈良市在住の同被告人の叔父川人利夫が同被告人の身柄を引受けている他、同被告人の実父池田末吉も将来実家へ同被告人を引き取り監督する旨、検察官調書中において述べ、昭和四四年一〇月一七日付司法警察員作成の被疑者取調状況報告書によると、同被告人も叔父及び実父の意向に従う意思であることが認められる。

被告人安藤も勾留裁判官、検察官に対して住居、氏名、身上等を述べており、同被告人は実家から通学中(実母が身柄引受人)であって被疑者取調状況報告書によると、捜査官に対し、自己の行為については公判廷で述べる旨再三主張していることが認められる。

右各事実に被告人両名に前科前歴がないことをあわせ考えると、被告人両名に逃亡のおそれがあるとは認められない。

これを要するに原裁判官が勾留取消請求を却下した日に検察官は一応の捜査を遂げて公訴提起をしているのであり、右の段階においては以上説示したように、最早、被告人両名について罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれを共に認めることができないのであるから、右勾留取消請求を却下した原裁判の判断は相当でない、といわなければならない。よって原裁判を取消した上、被告人両名の各勾留を取消すこととし、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松浦秀寿 裁判官 黒田直行 中根勝士)

<以下省略>

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